2020-03-20 BREXIT 現地ロンドンから見た英総選挙 ~失われるイギリスの強み~ コラム 文化 <以下の記事は2017年6月当時に執筆したものです> 本日、英下院議員選挙の投票結果が判明した。 メイ首相が掲げるEU単一市場からの撤退(BREXIT)の是非を問う選挙でもあり、与党保守党が過半数をとるのではないかという大方の予想だったが、またしても選挙結果は事前予想を裏切って、保守党は過半数をとれず、保守党にとってみれば思わぬ失敗選挙に終わった。 筆者はこの選挙に限らずBREXITのインパクトを観察してきた。せっかくのタイミングなのでBREXITに関して多くの方が疑問に思っていること、私がロンドンで肌身に感じていることをお伝えしたい。 直接の原因は格差拡大にあり イギリスは日本に比べると格差が激しいと感じる。それはロンドンとその他の地域という地域間の格差、そして高等教育を受けてきた者とそうでない者のそれだ。 残念ながら英国人の低所得者層はEUの移民に比べて労働力としての魅力に欠ける。勤勉さや器用さなどやはり国民によって得意不得意はある。 例えばポーランドからの移民は建築に優秀だったり、床屋に行くとアルバニア人やソマリア人。ウーバーでタクシーに乗るとバングラディシュ人だったり。 移民が入り始めたころはよかったのかもしれないが、移民にイギリス人の低賃金労働を奪われる形になってきたのだと感じる。もしくは移民のせいで自分達の仕事がなくなったと思っているイギリスの低所得層が多いように感じる。実際私の友人の東欧出身者もそういった仕事をイギリス人と奪いあっている。 一方で比較的高所得者の多いロンドン中心部では圧倒的にEU残留にウェルカムだ。中流層以上の親しい英国人の友人に話をしてもEU離脱派はほとんどいない。彼らはEUに留まる経済的なメリットを理屈で理解しているのだ。 【スポンサーリンク】 短期的な影響は当初の衝撃に比べれば小さいだろう EU離脱が決まった瞬間は日本でもかなりニュースになったが、当然ながらイギリスでも大騒ぎだった。特に事前の予想では残留派がリードしていたので、離脱はないかなと思っていた。だからこそ為替も暴落した。 我が家でも実際にポンドベースでは数十万円の損失を出したことが記憶に新しい。金融業界をはじめ欧州大陸に一部機能を移す会社は実際に出始めているが、それでもあくまでも一部であり、ロンドンを中心としたビジネスの世界は当面維持される雰囲気だ。実際に、邦銀でも人が大陸に動くのは一部だけだ。 それでも失われるロンドン最大の強み 筆者がロンドンに移住してもっとも驚いたことはこの都市の多様性と開放性だ。 そしてそれは間違いなくこの国の競争力の源泉である。この都市の競争力は主に以下の3つがあると感じる。 1.多様性、開放性 2.文化、立地(欧米文化の世界的浸透、地理的に欧州マーケットに近い) 3.英語 特に、1と2が大きい。今回この1にイギリスは蓋をしようとしている。なんとももったいない。 はっきり言って、BREXITが判明した瞬間、この国のことが嫌いになった。この国を好きでいられる最大の理由がなくなったからだ。本当にショックだった。 現に東欧出身の友人は、「地下鉄のホームでイギリス人から話かけられ、たまたま同じ大学出身ということでかなり盛り上がったところで、どこの街の出身かという話しになった。自分が東欧のある国だと伝えると相手の態度が豹変し、私は離脱派だからと言われ、それ以降は口も聞いてくれなかった」というつらい経験もしている。 それに加えイギリスの健康保険制度であるNHSを通じても移民に反感があったりもする。NHSの病院ではかなり待たされることが多いのだが、英国なのに英国人が優先されない現実に対しての不満を言う人も少なからずいるのが現状だ(当然、元々は移民の方でも英国人と同様に税金を納めているのだが)。 最後に 地下鉄やバスに乗ると、同じ車両の中にも本当に色々な人種の人が混在する。職場も同じである。多様性がこの国を形作ってきた。 人種が違うとやはり見えない壁があるように感じるのは事実だが、長い時間をかけてイギリスの社会はこの壁を意識的に取り除くように努力をしてきた。小学校の授業でもそのような内容が非常に多い。 それが今回のBREXITで自己否定する形となった。本当にもったいないし残念である。 すでに今回の選挙においては、BREXIT選挙においてはEU残留派だった人たちの半数近くが、国民投票で決まったことなので、EU離脱はやむをえないと考えているとのデータもある。もはやBREXITは不可逆的だと多くの人がとらえている(実際にそうなるだろう)。 それでも歴史あるこの国には是非とも寛容な姿であり続けてほしいと切に願うばかりだ。 <以下、2020年3月追記)> なお、こちらの同様の内容を、日本で2019年に本屋大賞を受賞されたブレイディみかこさんも、著書「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」で書かれています。 現地の小学校での経験を通じて語るイギリスの「今」は、格差社会と多様性の中を生き抜くためのヒントがつまっています。まだお読みになられていない方は是非。 リンク 【スポンサーリンク】 にほんブログ村 ロンドンランキング