London Walker(ロンドンウォーカー)

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【2019年本屋大賞】英国から見る「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」(ブレイディみかこさん)・感想/あらすじ

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2019年本屋大賞を受賞した「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」(ブレイディみかこさん)。英国を舞台としたこの本。本屋大賞候補にノミネートされる前から英国内の日本人の間でもじわじわ話題となっていた本書ですが、イギリスに住んでいると共感できるところがたくさん。実際に英国からこの本を読んで共感した部分や強調したいところを取り上げます。

 

 

 

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著者略歴

著者のブレイディ・みかこさんは1965年福岡市生まれ。

「県立修猷館高校卒。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、1996年からイングランド南部のブライトン在住。

ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得。そのかたわらでライター活動を開始。

2017年に新潮ドキュメント賞を受賞し、大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞候補となった「子どもたちの階級闘争ーブロークン・ブリテンの無料託児所から」(みすず書房)をはじめ著書多数」(ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルーより)

 

 

イギリスの公立小学校・中学校はブレクジットやアメリカのトランプ政権のアメリカ・ファーストが表す世界の分断の流れをまさに身近に感じることができる「世界の縮図」です。この本ではこの「世界の縮図」を舞台に、ブレイディみかこさんの息子さんをとりまく出来事をみかこさんがうまく切り出し、リズムよく社会問題とひもづけていきます。

イギリスだけでなく、日本人である我々が今後どのような方向に向かっていくべきなのか、そんなことを楽しみながら考えさせるストーリーとなっています。

 

1.公立小学校・中学校をめぐるソーシャルアパルトヘイト

冒頭で英国の公立小学校・中学をとりまく状況が次のように説明されています。

「英国では、公立でも保護者が子どもを通わせる小・中学校を選ぶことができる。公立校はOfstead(英国教育水準局)という学校監査機関からの定期監査報告書や全国一斉学力検査の結果、生徒数と教員数の比率、生徒ひとりあたりの予算など詳細な情報を公開することが義務付けられていて、それを基にして作成した学校ランキングが、大手メディア(BBCや高級新聞各紙)のサイトで公開されている。

 だから保護者たちは、子どもが入学・進学する何年も前からこうしたランク表を見て将来の計画を立て、子どもが就学年齢に近づくと、ランキング上位の学校の近くに引っ越す人々も多い。人気の高い学校には応募所が殺到するので、定員を超えた場合、地方自治体が学校の校門から児童の自宅までの距離を測定し、近い順番に受け入れるというルールになっているからだ。そのため、そうした地区の住宅価格は高騰し、富者と貧者の棲み分けが進んでいることが、近年では『ソーシャル・アパルトヘイト』と呼ばれて社会問題にもなっているほどだ。」。

 

これはシンプルに、実感から言ってもイエスである。

 

個人的は「ソーシャル・アパルトヘイト」という言葉は初めて耳にしたが、それでも良い学校の周りに引っ越す話は当然のように社会の中で語られている。良い学校のまわりには良い家庭が集まり、良い家庭の優秀な子が学校の評価を高めるという「上昇の連鎖」が起こる一方で、逆にOfsteed(オフステッド)で下位の学校の周りには裕福な家庭は集まらず、「下降の連鎖」が起こる。まさに「ソーシャル・アパルトヘイト」という表現は的を得ている。

 

ちなみに、家が近いだけでは希望の学校には入れないことがある。

学校では1クラスあたりの定員が厳格に管理されており、満員の場合は引っ越ししてきても受け入れてもらえず、学校側の入学希望者の待ちリスト「Waiting list(ウェイティングリスト)」に登録してもらうことになる。

したがって、できるだけ早いうちから学校の近所に引っ越しして、準備を進めておくことが大事になるのである。

 

中には、子どもが生まれたら最初にやることは人気学校の近くに引っ越すこと、という話も耳にするほどだ。

 

日本では公立の小学校・中学校は同じ地区の学生は基本的は入学でき、公立小学校、中学校のランキングは公には存在しないが、英国ではOfstedの存在が世の中の流れを大きく変えているのである。

 

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 ブレイディみかこさんの息子さんは、公立の一番良い小学校に通えていたのですが、ひょんなことから、中学校を選択する際に、「底辺中学校」を自ら選択します(このあたりのストーリーはぜひ書籍でお楽しみください)。この底辺中学校を通じてこの世界の縮図をのぞいていくことになります。

 

2.「彼はレイシストだ!」

底辺中学校に通いだした息子さんは色々な経験をしていくのですが、その一つが移民(民族)差別。

息子さんも実際に差別的な経験をし、その結果が「彼はレイシストだ!」という言葉につながります。

イギリスの小学校・中学校では異なる人種への理解を深める教育が日本とは比べられないほど行われています。

色々な人種の方が混ざっているわけなので、そういった教育をしてこないと社会がもたないわけです。

しかし、一方で差別が存在するのも事実。あいつは黒人だからこうなんだ、とか、中国人だからマナーが悪いんだとか、そういった差別はやはり水面下で存在します。

しかし、そんな差別が表面化した時には、「そんなことを言う人はレイシストだ!」という魔法の言葉があります。

あまり普段使いする言葉ではありませんが、もし人種差別を見たり、受けたりした際には「人種差別は悪である」と主張すべきなのです。

 

3.フリー・ミール制度

書籍の中では英国の学校の無料給食、いわゆるフリー・ミール制度について次のように触れられています。

「英国の公立校にはフリー・ミール制度があって、生活保護や失業保険など政府からの各種補助制度、または特別な税控除認定を受けている低所得家庭は給食費が無料になる。小学校は給食性でみんな同じなので問題は発生しないが、中学校は学食制になるので生徒が好きな食事やスナック、飲み物を選んで購入することになる。現金は使わない制度になっているので、プリペイド方式で保護者の口座から引き落とされるシステムになっており、フリー・ミール制度対象の子どもたちには使用限度額がある。新入生はつい使い過ぎ、学期が終わる前に使い果たしてしまわないよう、先生から注意されていたのだろう。

 息子が通っていたカトリック系小学校には、フリー・ミール制度を利用している子はほとんどいなかった。だから息子には何のことだがわからなかったのだ。」。

 

英国では確実に英国人内でも激しい貧富の格差が存在する。これは真実だ。

 

書籍の中でも登場するグレンフェルタワーという高層住宅の火災(2017年)。英国でも極めて有名な富裕層が多く住むケンジントン・チェルシー地区にある低所得層向けの住宅がニュースになったことが記憶に新しい方も多いのでは。

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4.多様性

 中学校に入り、息子さんは色々な経験をしていくのですが、その中で対面したのが多様性の問題。移民差別が表面化しそうな局面における息子さんの言葉から始まります。

 

「うん。どうしてこんなにややこしいんだろう。小学校のときは、外国人の両親がいる子がたくさんいたけど、こんな面倒なことにはならなかったもん」

「それはカトリック校の子たちは、国籍や民族性は違っても、家庭環境は似ていたからだよ。みんなお父さんとお母さんがいて、フリー・ミール制度なんて使っている子いなかったでしょ。でも今あんたが通っている中学校には、国籍や民族性とは違う軸でも多様性がある」

「でも、多様性っていいことなんでしょ?学校でそう教わったけど?」

「うん」

「じゃあ、どうして多様性があるとややこしくなるの」

「多様性ってやつは物事をややこしくするし、喧嘩や衝突が絶えないし、そりゃないほうが楽よ」

「楽じゃないものが、どうしていいの?」

「楽ばっかりしていると、無知になるから」

 

このやりとりが極めて印象的。

たしかにイギリスの学校では多様性は良いことと教えられます。

ただ、小学生や中学生にとっては、なんとなく、ふーん、そうなんだぁ程度にしか思っていないわけですね。ですので、この会話が非常に意味が出てくるわけです。これは小学生、中学だけでなく、大人にとっても非常に意味のある会話です。

この会話のあとにお母ちゃんの素敵な言葉で締めくくられるのですが、それは是非書籍にてお楽しみください。

 

5.「アイデンティティは一つじゃない」

 ブレイディみかこさんが息子さんの学校の校長先生とお話する中でアイデンティティについて触れられています。この校長先生のお話が非常に素敵です。

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「僕は、イングリッシュで、ブリティッシュで、ヨーロピアンです。複数のアイデンティティを持っています。どれか一つということではない。それなら全部書けと言われるなら、『イングリッシュ&ブリティッシュ&ヨーロピアン・ヴァリュー』とでもしますか。長くてしょうがないですけど」と校長は笑いながら言った。

「無理やりどれか一つを選べという風潮が、ここ数年、なんだか強くなっていますが、それは物事を悪くしているとしか僕には思えません」

(中略)

「うちの息子なんか、アイリッシュ&ジャパニーズ&ブリティッシュ&ヨーロピアン&アジアンとめちゃくちゃ長いアイデンティティになっちゃいますよ」

(中略)

「でしょ?でも、よく考えてみれば、誰だってアイデンティティが一つしかないってことはないはずなんですよ」

(中略)

 分断とは、そのどれか一つを他者の身にまとわせ、自分のほうが上にいるのだと思えるアイデンティティを選んで身にまとうときに起こるものなのかもしれない、と思った。

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実はこのアイデンティティと多様性について、ロンドンウォーカでもまったく同じことを主張していました。ブレクジットを決める選挙当日に書かれたこちらの記事をご覧ください↓

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まとめ

ここに触れた部分以外でも、アイデンティティや多様性を軸としつつ、水泳大会や日本への一時帰国での体験を通じて、世界の大きな流れを私たちの身近な生活とリンクさせてくれます。一時帰国での体験を読むことで、日本での読者の方々も、目からうろこの気持ちになれる気がします。

 

改めて、イギリスの公立小学校・中学校はブレクジットやアメリカのトランプ政権のアメリカ・ファーストが表す世界の分断の流れをまさに身近に感じることができる「世界の縮図」です。

 

2020年、日本人である私たちが、今を生きるために絶対に読んでおきたい1冊です。

 

 

 

 

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